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REPORTイベントレポート

2020.09.28 UP

【後編】ブランドスタディしゃべルギアvol.1「地方発信ブランディングの可能性 後編」ゲスト迫一成さん

各分野のクリエイターやマーケターとともに、ブランディングについて深く知見を深める「ブランドスタディしゃべるギア」。
記念すべき第1回は、ヒッコリースリートラベラーズ代表の迫一成さんをゲストに、「地方発信ブランディングの可能性」をテーマに、≪前編≫ではかわいらしい見た目で大ヒットの『浮き星』やオーガニックコスメシリーズ『yaetoco』の商品開発秘話や、シビックプライドの観点から見直した自分たちの活動についてお伝えしました。≪後編≫では、ヒッコリースリートラベラーズのセルフブランディングや、ブランディングを継続していく重要さ等について幅広くお話を伺いました。

後編・目次

  1. ヒッコリースリートラベラーズの取扱商品
  2. 価値ある商品の価値を正しく伝える『越後長岡 星野本店 フリーズドライみそ汁』
  3. ヒッコリーのセルフブランディング
  4. ブランディングを継続していく重要さ

ゲスト 迫一成さん
1978年福岡県生まれ。新潟大学人文学部卒業。 2001 年クリエイト集団ヒッコリースリートラベラーズを結成。新潟市上古町商店街理事。「日常を楽しもう」のコンセプトで、衣類・雑貨・土産品等の制作・販売、各種デザイン、企画など行う。グッドデザイン賞受賞、講演会、アドバイザーなど多数。 2019 年より新潟アートディレクターズクラブ会長。

聞き手・柳澤
ご依頼いただいて商品化するものと、自分たちでアイテムを発掘してきて商品化するものの割合はどんなですか?


どうかなー、半々ぐらいですかね。
雲崎町で作られている『国産紙風船』も『ヒッコリードリップコーヒー』も『佐渡番茶』も勝手にしてるなー。

燕三条の動物カトラリーシリーズ』「小さい頃使っていたこのスプーンも燕産だったんだ、と改めて商品の産地や開発ストーリーに気づいてもらえることも多々ある」と迫さん。メーカーから仕入れた商品に、開発ストーリーを掲載した台紙のみを追加し販売している。
左/『ヒッコリードリップコーヒー』 中/出雲崎町で作られている『国産の紙風船』 右/『佐渡番茶

迫さん
この『越後長岡 星野本店 フリーズドライみそ汁』はすごくおいしくて、新潟県保証協会さん経由で「経営やデザインをどうやったらいいですか?」と相談が来たんですが、デザイン代どうこうの話しじゃないんですよね。当時は先方がデザインの価値なんか認めてないし、デザイン代を払う気もないけど、それでもなにかできることないかな、と思ってやった商材です。デザイン代はもらえてないけど、いい商品でお店でも取り扱えると思ったので、考え方のひとつとして。

柳澤
商品開発の際に、先方がデザインの価値を信じていないときや、ブランディングの重要性を理解していない時はどういった説明の仕方をされているんでしょうか?


このお味噌汁、フリーズドライで1個302円と高いんですけど、ものすごく美味しいんです。社長と奥さん、つまりお父さんとお母さんが息子たちのために野菜をたっくさん入れていて、自分ちの味噌の味を忘れないように。それで原価がすごくかかっているんです。

迫さん
コンビニの同様の商品は100円ぐらいだから、がんばっても150円ぐらいの価格設定にしかできなくて。パッケージも原価に見合わないものだったので、もったいなくて。なので「商品そのものに価値があって、価格も上げられるから、その価格に見合うパッケージにしましょう」という風に、お話しました。でもそれも難しいんですよね。先方は「そうはいっても他所はもっと安く売ってるんだから」と。で、結局折衷案みたいなカタチでおちつくことが多いですかね。
例えば150円のものを、私たちが200円で売りませんか?と提案して、「200円はちょっと」というので170円になって。でも≪原価100円/売価170円(70円の利益)≫という商品の販売価格が200円になったら、30円利益が増えるじゃないですか。ぱっと見、200円のうち30円の値上げだから15%のアップですけど、利益だけでみると70円から100円になるので、50%も利益が増えているんですよね。そういう「数十円の値上げってすごく大事ですよね、経営の面でもこんなに意味ありますよ」というお話をして進めています。
パッケージのこの文字はヒッコリーにインターンシップで来ていた子に書いてもらいました。達筆すぎると老舗みたいだし、上手だけど素朴な書き文字っていうのもこの商品にはすごく合っていてよかったと思います。
単価としては高いけど、購入金額としては試せる価格なのこともあって、一度購入した方からのリピート買いはとても多いです。「おいしかったから他の人にもあげようと思う」とよく聞きます。

柳澤
なるほど、デザインによって商品そのものの価値に見合った価格で売れるようになる、と。このパッケージはどれくらい試行錯誤を重ねて最終形に落ち着いたんですか?


味噌汁のパッケージはいろんな方法で包んでみたり、1枚の紙で袋状にできないか試してみり、原価をかけたくないという希望だったので、いろいろやってみました。最終的には既製品のクラフト紙にうちのインクジェットプリンターでプリントアウトし、赤いシールを貼るという、お金をかけず、簡単にできる方法になりました。
このお味噌屋さんがお店で作業できるように設計したんですけど、忙しくて後回しになっちゃって、結局やらないんですよね。(笑)なのでうちで仕入れてパッケージ作業はこっちでやっていました。
ただ2年ぐらいしたらやっとオリジナルのパッケージの依頼がきましたね。時間はかかっても「なんか売れるね」という経験をしてくと、自然と次のアクションを始めるんですよね。自分たちで売れる商品のヒントを気付けているというのはよかったなぁと思います。

柳澤
私から最後の質問になりますが、これまで迫さんがご活躍されてきて、“ブランディング”をどのように捉えているかお教えください。

迫さん
僕たちのブランディングにおいては、ヒッコリーのブランディングが1番成功したんじゃないかと思っていて。お店を構えてこれまでゆるゆるとやってきた活動や、「なんか楽しそうだね」と思われている部分がいろいろと良い意味で作用していると思っていて。余談ですけど、これまで3つほど超ラッキーだったと思うことがあって、1つは何もできないくせに自分たちのことを「クリエイト集団」って名乗っちゃったんですよ。たいしたデザイン経験もないのに、22歳ぐらいで「クリエイト集団ヒッコリーです」って始めちゃったから、デザインできる大人からみたらコノヤロウですよね。(笑)でも雑誌でもテレビでも「クリエイト集団」と紹介されて、それを見て「この人たちなんか作れる人たちなんだな」って思ってもらえるのが1つめのラッキーでしたね。2つめは僕たちの「日常を楽しもう」というコンセプトがいろんなことを肯定できるコピーで、非常にポジティブで時代に合っていたな、と。3つめがグッドデザイン賞に「地域に根差したデザイン活動」で受賞したことです。KITTE丸の内のグッドデザインストアさんは、グッドデザイン賞を受賞した商品を取り扱っているんですが、我々は活動自体で受賞していたので、どんなアイテムでも取り扱ってもらえるので超ラッキーでしたね。常に計算していたことではないんだけど、運の良さに非常に救われてるなぁと。グッドデザインストアで取り扱われているということで、お店への信頼も高まるし、我々もいろんなアイテムを他の場所に流通できるので。

柳澤
でもそれらのラッキーは、やはり自分で活動のフィールドを作ってこられたからですよね。そこが1番難しい部分だと思います。

迫さん
世の中も「ブランディングやデザインって大事だよね」という風向きになってきているので、あとは自社のブランド化の目的・意味はどこにあるのか、という部分をちゃんと自分たちの言葉で説明できるようになることが大切だと思います。ものを売るだけじゃないブランディングはたくさんあるんじゃないかなという気はします。
それと、ブランディングを始めたら、また次のブランディングをしなくてはいけないということ。きれいに壁を白く塗ってもしばらくすれば汚れて、また塗りなおさないといけないじゃないですか。だからブランディングって常に更新していかなきゃいけないもので、放置してると劣化していくので。メーカー・企業とデザイナーが10年・20年単位で契約して、常に「こうしましょう」とパートナーとして提言していくことでブランドを活かしていくのが望ましいと思いますね。

柳澤
作りっぱなしのデザインではなく、より相手の立場にたって、その人たちがどうなることがベストなのか、本質的なところにも手が届くことができるといいんでしょうね。
ヒッコリーさんはブランディングも転機のひとつとして、さらにその先を見据えているとのことで、引き続き今後のご活躍に注目し続けていきたいと思います。
本日は貴重なお話をたくさん聞かせてきただきありがとうございました。


迫さんよりhickory03travelersのご紹介
「日常を楽しもう」をコンセプトに、アレコレと穏やかに取り組むクリエイト集団です。そんな私たちが運営するお店が上古町商店街にある「hickory03travelers」と
新潟市美術館のミュージアムショップ「ルルル」です。
ぜひ、ウェブサイトで背景や思いを知っていただき、お店で、楽しんでいただけると幸いです^^
私はほとんどいませんが、とてもいい店です。